研究概要 |
標高傾度にそって気温が変化するため,それに応じて植生も変化する.また植生は徐々に変化するのではなく,あるところで急激に変化する.これを植生移行帯という.この研究では本州中部地方の亜高山帯針葉樹林の下部で優占するシラビソと上部で優占するオオシラビソの植生移行帯と森林限界(オオシラビソの分布上限)がどのようなメカニズムで形成されるのか,そして地球温暖化は植生移行帯や森林限界の動態と標高傾度にそった植生パターンにどのように影響するのかを解明することを目的としている.標高は温度を通して実生の発芽定着とその後の個体間競争に影響し,また高い標高では風速が強いために攪乱が増加するだろう.それらの結果をとおして標高傾度にそった更新動態や植生分布が決定されると考えられる. 亜高山帯針葉樹林の分布上限はオオシラビソやダケカンバの高木限界である.この高木限界より上の標高では矮性低木のハイマツ林が広がっている.この森林限界の形成機構を調べるために,森林限界(標高2500m)を挟むように標高2360m~2600mまで森林構造とオオシラビソの成長,死亡などを調べた.その結果,オオシラビソの成長は標高が高くなるほど高かったため,成長にとって気温が低いために高木限界が形成されているわけではなかった.一方,標高が高いほどオオシラビソの幹や枝は風雪により物理的なダメージを受けていた.また,死亡率も高い標高ほど高かった.したがって,高木限界は温度条件よりも風雪による撹乱が至近要因となっていることが明らかになった.
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