標高傾度にそって気温が変化するため,それに応じて植生も変化する.また植生は徐々に変化するのではなく,あるところで急激に変化する.これを植生移行帯という.この研究では本州中部地方の亜高山帯針葉樹林の下部で優占するシラビソと上部で優占するオオシラビソの植生移行帯と森林限界(オオシラビソの分布上限)がどのようなメカニズムで形成されるのか,そして地球温暖化は植生移行帯や森林限界の動態と標高傾度にそった植生パターンにどのように影響するのかを解明することを目的としている.標高は温度を通して実生の発芽定着とその後の個体間競争に影響し,また高い標高では風速が強いために攪乱が増加するだろう.それらの結果をとおして標高傾度にそった更新動態や植生分布が決定されると考えられる. 今まで,標高傾度にそって,亜高山帯の優占種であるオオシラビソ,シラビソ,ダケカンバの分布上限と下限における肥大成長に対する気象条件の影響を年輪年代学的方法で調べてきた.その結果,高い標高ほど夏期でも冷涼な気候のため,樹木の成長は夏の気温が高い年に成長が増加することが明らかになった.この傾向は特に年輪幅よりも年輪内最大密度で顕著であった.したがって,温暖化は高い標高の樹木の成長を高めることが予想された.この予測を検証するために,気象条件から成長を予測するモデルを作成した. そのモデルにIPCCレポートで用いられている2100年までの気象予測シナリオを代入することで,温暖化の樹木の成長に対する影響を予測した.その結果,高い標高ほど温暖化によって樹木の成長が増加し,この傾向はとくにCO2排出の多い気象予測シナリオでより顕著であった.
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