ブナ科樹木萎凋病(ナラ枯れ)を引き起こすカシノナガキクイムシは、寄主木や穿孔部位をどのように選択しているのか。これらを明らかにすることは、拡大する一方のナラ枯れ被害を最小限に食い止める防除方法の策定に寄与することが期待される。京都府東部の二次林で、【1】穿孔対象とされる可能性が高い樹木の特性、【2】穿孔されて枯死する可能性に影響する要因、【3】穿孔部位の探索決定様式とその適応的意義、をそれぞれ明らかにするための調査を行った。 【1】については、0.5haのプロットを1個追加設定し、昨年度までの調査結果とあわせて解析した結果、周辺5mというスケールではブナ科樹木が高密度の方が穿孔される確率が高く、周辺17.5mというスケールでは低密度の方が穿孔される確率が高くなっていることが明らかとなった。現在論文にまとめ投稿中である。【2】については、カシノナガキクイムシの穿孔木の分布を3年間継続調査したデータを用いて、空間自己相関を考慮した上で穿孔木の生死を予測するモデルを構築したところ、説明変数として樹種・胸高直径・周辺15mの穿孔木の胸高断面積合計・標高を含んだモデルが最も予測力が高かった。調査地内では低標高に位置し周辺に穿孔木が多い太いミズナラでマスアタックが起こり枯死しやすくなっていることが明らかとなり、2013年3月の学会で発表した。【3】については、7月から10月にかけてミズナラ樹幹上で形成される穿孔穴の位置を週1回の頻度で継続調査し、飛来穿孔が終了した11月以降各穿孔穴内部の繁殖成功の有無を排出されるフラスの質から判断した。その結果、初期は樹幹下部に集中している穿孔穴の位置が密度上昇に伴い上部に移行していくこと、繁殖成功には穿孔の形成時期や高さは影響を及ぼしておらず穿孔密度のみが影響を及ぼしていることが明らかとなり、2013年3月の学会で発表した。
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