2009年の台風によって台湾高雄県小林村で発生した斜面崩壊は、小林村集落を壊滅させ、500名以上の犠牲者を出す大災害となった。この斜面崩壊は、一般的な規模の斜面崩壊と同じような発生機構を想定することが困難なほど非常に大規模なものであった。事前の現地調査では、斜面崩壊が特に段階的なプロセスで進行したとの目撃情報は得られていなかったが、むしろこれほどの巨大な斜面が、一塊となって同時に崩壊する事を想定する方が不自然でもあるため、時間的なずれの有無は別として、段階的な崩壊現象を想定した検討を行った。まずは、現地斜面の土層試料を、採土円筒を用いて採取し持ち帰り、飽和透水試験、土壌水分特性試験を実施し、土層の物理特性を決定した。DEMデータから、斜面崩壊前の斜面形状と基岩形状を想定し、更に雨量データ入手した。それらを元に、降雨浸透解析と斜面安定解析を組み合わせた数値シミュレーションを実施し斜面崩壊発生の時刻や、斜面崩壊発生時の初期滑り面形状の再現を試みた。その結果、初期滑り面形状は最終的な崩壊形状とは異なり、斜面下部の限られた箇所に留まり段階的な崩壊が発生していた可能性が高い事が分かった。初期崩壊に続いて段階的に崩壊が進行していくプロセスを記述するシミュレーションモデルの開発を進めている。 また、2010年に鹿児島県奄美市で発生した斜面崩壊のうち少なくとも2箇所においては、その規模や発生プロセスが段階的であった疑いがあるため、予備的な現地調査を実施し、今後詳細な調査を実施する計画である。更に、過去に発生した段階的斜面崩壊跡地の一つとして、大分県竹田市の崩壊跡地の現地調査を実施した。 段階的崩壊発生の要因のひとつと考えられる斜面土層内のパイプが、降雨浸透や斜面安定性に与える影響に関する室内実験を実施し、その結果について解析を行っている。
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