2000年代中頃よりわが国の木材生産量が増加傾向にある中で、素材生産の現場では伐採跡地の荒廃が問題となっている。本研究では、素材生産における環境配慮に業界活動として取り組んでいる宮崎県のNPO法人ひむか維森の会を主に取り上げ、分析してきた。本年度は、事業体論の構築を目的とし、とりわけ素材生産業界における事業体の多様性をいかに捉えるかを課題として、宮崎県内の事業体を対象に聞き取り調査及びアンケート調査を行い、結果分析を行った。その結果、民間事業体の中での規模や組織の人員構成による差は大きくないと考えられたが、民間事業体と森林組合との間には、いくつかの点でパフォーマンスに差があることが明らかとなった。特に、伐出作業時の環境配慮にも影響があると考えられる主伐生産を行う際の事業体と所有者との関係については、1)事業体側から相対交渉を始めることは隣接地所有者に声をかける以外にはあまりなく、多くの交渉は所有者や仲介者から事業体に持ち込まれていること、2)民間事業体ではブローカーなど仲介者を介している場合が半分程度あるのに対し、森林組合ではほとんど仲介者を介することがないこと、3)民間事業体と比べ森林組合は相対交渉の成約率が高いことなどが分かった。これらは地域の森林所有者の協同組合である森林組合は森林所有者からの信頼を受けやすいことによるものと考えられた。また、何らかの事情で伐採が不可能な人工林資源の割合を推定してもらい、地域別に集計したところ、急傾斜地の奥山が広がる県北の方が伐採不可能資源が少ないとの結果が得られた。このことの一因として、県北では事業体が架線集材の技術を備えていることが当然で、架線集材技術さえあれば、立地条件による収穫不可能性が相当低減されることが考えられた。これは、環境配慮とともに資源の利用可能性を考えた場合にも架線集材技術が重要であることを示唆するものである。
|