研究課題/領域番号 |
22580166
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
亀山 統一 琉球大学, 農学部, 助教 (30264477)
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キーワード | 林学 / 樹木内生菌 / マングローブ / 琉球列島 / 散布体 |
研究概要 |
人為の負荷の強い沖縄島のマングローブと、自然度の高い西表島のマングローブとに設けた調査区において、メヒルギとヒルギダマシを対象として、果実・樹上の散布体・漂流している散布体の幼組織、定着間もない稚樹の茎葉・低樹高の成木・高樹高の成木の茎葉を、それぞれ適切な時季に採取し、植物組織からの菌類の分離を行った。 同一調査地の隣接する個体を比較すると、実生~成木樹冠下部の水没位置の茎葉からは、メヒルギ成木の冠水しない樹冠上部よりも一般に内生菌の総分離率が低く、菌種構成も単純だった。散布体組織からの内生菌分離率はしばしば低かった。散布体や実生苗の菌種組成をみると、メヒルギ成木樹冠上部でふつう優占する内生菌群があまり出現しなかった。また、散布体を時系列的に採集して菌類の分離率や種構成を比較すると、散布体は、樹上で成熟中にも、林床で漂流または定着成長している間にも、内生菌感染が進まなかった。 一方、メヒルギ枝枯病菌のような病原菌は、散布体、実生苗、成木を問わず、健全組織からはほとんど分離されなかった。 散布体は低率ながら多様な菌類(主に内生菌類)を感染させて散布されていく点で内生菌の「乗り物」となり得ているが、それらの菌類は、散布体が定着した先で伸長させた茎葉組織には、そのまま優先的に侵入していけるわけではない。茎葉では、しばしば感染能力が非常に高い別の樹木内生菌群に取って代わられていく。しかし、実生苗など低樹高のマングローブ個体の茎葉は、潮汐の影響で冠水することもあり、菌類にとって感染環境が厳しいと推測され、高樹高の成木樹冠に比して内生菌の感染率が低い、すなわち、茎葉組織に内生菌が飽和しない可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
メヒルギとヒルギダマシを対象に、散布体から稚樹・成木にいたる茎葉の内生菌相について、沖縄島と西表島で明らかした。また、両樹種に優占的な多犯性の内生菌種について、茎葉への接種試験による感染性を検討した。以上は目標を十分に達成している。分離菌株の種同定が遅れており、今年度中の解決を目指す。また、散布体が樹上から落下漂流し定着成長する過程での樹木寄生菌相の時系列的変化については、昨年から実験を始め、今年度の実験で十分知見が得られる見通しである。散布体の組織解剖は今年度本格的に行う。菌類の拮抗性は予備試験で困難があり再検討して行う。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は最終年度であり、マングローブ樹種のうちメヒルギとヒルギダマシに集中して検討を行い、まとまった成果を出すこととしたい。具体的には、メヒルギの散布体に優占的な不稔菌の種同定を始め、樹木内生菌の種同定を重視する。また、散布体が樹上から、落下漂流し、定着成長する過程での茎葉の樹木寄生菌相の時系列的変化について、今年度の実験で確実に追跡し、稚樹と成木など、樹冠が潮汐により日々冠水する低樹高の個体と満潮位よりも樹幹が上に届く高樹高の個体の間で、樹木寄生菌相が異なるという、陸上森林と異なる、マングローブに特徴的な現象について、確証的な知見を得て、本研究の中心的な成果としたい。一方、菌類の交互接種による拮抗性等の検討については、方法を再検討しつつ配分可能なエフォートの範囲で効果的に実施する。
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