自然度の高い西表島のマングローブ林で、メヒルギの果実・樹上の散布体・漂流している散布体の幼組織、定着間もない稚樹の茎葉・低樹高の成木・高樹高の成木の茎葉を、それぞれ適切な時季に採取し、植物組織から菌類を分離した。 メヒルギの果実は、初夏に主に成木の樹冠上部につき、その位置の茎葉からは多種の内生菌が分離され、内生菌の総分離率も高い。果実内で発芽した幼植物体では、同一枝の茎葉に比して、内生菌の菌種数も分離率も著しく低かった。この幼植物体(散布体)は数ヶ月間樹上で成長し、果実を破って胚軸が長く伸び、翌春に落下して漂流する。この過程を通じて、胚軸・子葉から分離される内生菌の種数・分離率は顕著に上昇しなかった。 漂流後の散布体は、好条件の場所に流れ着くと発根して胚軸を直立させ、成長を始める。こうした稚樹が出す葉は、潮汐により毎日冠水する高さにある。この葉からの内生菌分離率・菌種数は、成木の樹冠上部よりも著しく低いが、時として高率で内生菌が分離される葉もあった。これは、成木の樹幹下部の茎葉と似た傾向であった。 一方、成木の樹冠上部では、メヒルギ枝枯病の感染・発病による枝の枯れ下がりや、病原の特定されない梢端の壊死が、活発に起こっている。成木の樹幹下部や稚樹では、病原の特定されない梢端の壊死は活発に起こったが、メヒルギ枝枯病は、明らかに発生しているものの激害枝は少なかった。同病は、果実や散布体の組織からは全くみいだされなかった。 このように、散布体と成木の茎葉では内生菌・病原菌の感染可能性が大きく異なり、したがって散布体は定着先に樹木寄生菌を運ぶ「乗り物」となり得ているが、定着後の茎葉の菌類組成を規定してはいない。一方、稚樹・成木の茎葉の組織にいる内生菌・病原菌は、外部からの胞子感染がその主要な感染経路であり、その過程で、潮汐による冠水が感染・発病に強く影響しているといえる。
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