我々は,スギ花粉症対策として遺伝子組換えによるスギの雄性不稔化技術の開発を進めている。そのために花粉発達に必須な組織であるタペート層で高発現する遺伝子のプロモーターを単離した。このプロモーターにRNA分解酵素(バルナーゼ)遺伝子を連結し、さらにバルナーゼの異所的発現を抑えるためにバルナーゼの阻害因子であるバルスターを構成発現させるカセットを連結し、雄性不稔化ベクターを構築した。これをスギの不定胚形成細胞に遺伝子導入し、組換えスギを作製した。この組換えスギの花粉形成能を調査したところ、雄性不稔であることが確認できた。一方,組換えスギを野外で商業的に栽培するためには、種子による導入遺伝子の拡散をも抑えるための雌性不稔化も必要になる。そこで、雌性不稔化ベクターの作製に必要となる雌性生殖器官で高発現する遺伝子のプロファイリングを行うことを本研究の目的とした。雌性生殖器官のうちの胚珠で特異的に発現する遺伝子を単離するためにスギの胚珠組織を切り取り、そこからRNAを抽出し、Suppression Subtractive Hybridization(SSH)法により胚珠特異的cDNAライブラリーを作製した。得られたcDNAライブラリーについてサンガー法と次世代シーケンス解析を行い,スギの胚珠で特異的に発現する遺伝子情報を集積し、そこには雌花形成に関与することが予想されるclass B MADS-boxタンパク質や、耐寒性、耐乾燥性に関与する遺伝子が多く存在した。更に雌性生殖器官での発現遺伝子の詳細な情報を集積するために,雌性生殖器官の分化段階別(胚珠原基分化、胚珠形成時期、雌花開花、雌性配偶子形成)にcDNAライブラリーを作製した。
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