研究概要 |
本研究では、森林土壌の酸性化による重金属の動態の変化が森林生態系内および系外へ及ぼす影響を予測するために、重金属のなかでも有害性の高い鉛(Pb)、カドミウム(Cd)、高濃度では有害であるが植物の必須元素でもある銅(Cu)、亜鉛(Zn)、および人為起源の指標となりうるバナジウム(V)、アンチモン(Sb)を対象とした。今年度は、森林小流域(筑波共同試験地)において、降水(林外雨、林内雨)、および土壌水(0~100センチ)の観測装置の設置および観測(2週間に一回の頻度)を開始した。また、観測地点の森林土壌の理化学性を明らかにした。 1)森林生態系における重金属の動態 筑波共同試験地における降水(林外雨)中の重金属濃度の平均値はそれぞれ、Pb:1.33μgL^<-1>、Cd:0.05μgL^<-1>、Cu:4.09μgL^<-1>、Zn:7.51μgL^<-1>、V:0.38μgL^<-1>、Sb:0.09μgL^<-1>であった。これらの重金属の濃度は林内雨中で1.3~1,8倍程度高くなった。また、流域から流出する渓流水中の濃度はバナジウムを除き、林外雨の0.14~0,26倍と低下した。しかしながら、バナジウムは林外雨より渓流水中の濃度が3.6倍程度高くなった。これは、筑波共同試験地の主な地質が斑糲岩であり、バナジウムを多く含む基岩から溶出し、渓流水中の濃度が高くなったと考えられる。一方、土壌水中の重金属濃度はカドミウムを除いては表層以外では低濃度であった。カドミウムは下層ほど高い値を示したが、渓流水中の濃度は土壌水中の濃度の1/100程度に低下していた。 2)森林土壌の物理化学性の解明 土壌水を採取している地点の土壌のpHを測定したところ、表層から下層(0~100センチ)にかけて4.5前後であった。通常下層土壌ではpHの値が表層に比べ高くなるが、この流域の土壌中ではそのような変化は見られなかった。
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