本研究では、森林土壌の酸性化による重金属の動態の変化が森林生態系内および系外へ及ぼす影響を予測するために、重金属のなかでも有害性の高い鉛(Pb)、カドミウム(Cd)、高濃度では有害であるが植物の必須元素でもある銅(Cu)、亜鉛(Zn)、および人為起源の指標となりうるバナジウム(V)、アンチモン(Sb)を対象とした。今年度は、森林小流域(筑波共同試験地)において、降水(林外雨、林内雨)、および土壌水(0~100センチ)の観測観測(2週間に一回の頻度)を前年度より継続して行った。また、観測地点の土壌特性として粘土鉱物組成およびBCR法による各重金属元素の土壌中の形態別存在量を明らかにした。 1)森林生態系における重金属の動態 筑波共同試験地における降水中の重金属濃度は林外雨に比べ林内雨中で高くなった。また、流域から流出する渓流水中の濃度はバナジウムを除き、林外雨中の濃度より低下した。しかしながら、バナジウムは林外雨より渓流水中の濃度が3倍程度高く、筑波共同試験地の地質の影響が見られた。一方、土壌水中の重金属濃度はカドミウムを除いては表層以外では低濃度であった。カドミウムは下層100㎝の深度においても高い値を示したが、渓流水中の濃度はその濃度の1/100程度に低下しており、流域からのカドミウムの流出は少なかった。 2)観測地点の土壌特性の解明 土壌水を採取している地点の土壌中の粘土鉱物組成分析を行った結果、A層、B層において主要粘土鉱物はカオリン鉱物およびクロライトであった。また、各重金属元素と土壌固相との結合形態においては、Cdは全層位において易移動性画分の割合が他の元素と比較して高く(30~40%)、この観測地点において土壌水中のCd濃度が下層においても高い結果と一致した。
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