本年度は、1)山梨県塩山においてイロハモミジの紅葉の程度と植食性昆虫による食害、アブラムシの個体数、アリの随伴の関係の調査と、2)草本植物、木本植物の新葉と古葉の色の比較調査の2つをおもに行なった(この調査は過去2年も行なったが、本年に集大成)。1)の調査では、イロハモミジの秋季の葉色と植食性昆虫による食害、アブラムシの個体数、アリの随伴のいずれとも有意な関係は見出されなかった。秋季のアブラムシ数は、他の虫(チョウ目幼虫とフクログモ類)が作ったリーフシェルターの存在に依存し、アブラムシはシェルター内部で増殖していた。これは、モミジ樹上での節足動物間の相互作用が複雑であることを示している。過去2年の調査では、秋に赤く紅葉する木で食害が少なく、黄色に紅葉する木で食害が多い傾向があった。しかし、本年度の調査地ではっきりした関係がなかったのは、植林地なので樹木が遺伝的に均質であること、シカによる食害で状態のよい木が少ないなどの撹乱要因があったことが原因であろう。2)さまざまな生活型の植物(木本102種、草本61種)で、新葉と古葉の色彩を比較した。木本では、69%の種で新葉と古葉の色が一致したが、31%の種で色が異なっていた。新葉が緑色の種では、古葉は必ず黄色か緑色であり、赤く紅葉する種はなかった。草本では、57%の種が新葉と古葉の色が一致したが、43%の種で異なっていた。木本とは異なり、新葉が緑色で古葉が赤色の種もあった。以上から、木本、草本ともに新葉と古葉の色が異なる種がかなり含まれ、これは新葉と古葉で異なる選択圧が作用していると考えられた。春と秋で光環境はあまり変わらないと考えると、植食性昆虫などの生物的要因の重要性が示唆された。また、草本植物では、全体が赤くなって結実した後枯死する種があった。これは種子への栄養分の転流のために色素を形成していると考えられる。
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