研究概要 |
微生物群集構造にもとづく森林内での木材腐朽過程の動態を分析した結果,森林内でのスギ材の腐朽過程において,その腐朽率と菌類バイオマスには相関が無く,放線菌等のバクテリアバイオマスとの間に相関が認められた。このことから,今後の木材腐朽のメカニズム解明のためには,特定の木材腐朽菌のみを対象とするのではなく,バクテリアを含めた微生物群集という総合的な観点が必要性と思われた。そこで本研究では,木材腐朽菌と相互作用する細菌の探索を目的に,腐朽木材上に発生した子実体から腐朽菌を,また同一腐朽木材から細菌をそれぞれ分離し,対峙培養することで,細菌が木材腐朽菌の菌糸伸張に与える影響について調査した。 宮崎大学田野演習林内の腐朽倒木から,発生している子実体およびその子実体直下の腐朽材を採取した。採取した子実体から,コナラ木粉寒天培地を用いて菌糸の純粋分離を行った。腐朽木材からは,希釈平板法を用いて細菌の単離を行った。:子実体から得られた腐朽菌と,腐朽木材から得られた細菌とをPDA培地上,25℃の暗黒条件下で対峙培養し,腐朽菌菌糸の伸張速度を測定した。 腐朽材から単離された細菌類について,コロニーの形態が異なる細菌株を選択し,対峙培養を行った。木材腐朽菌と細菌との種々の組み合わせについて検討し,菌糸伸張が阻害されるもの,菌糸に触れた細菌が菌糸に付着し,共生しているように見えるものが多数観察された。そのうち,木材腐朽菌N.4と細菌TN4W-19の組み合わせによる菌糸伸張の促進効果は,菌糸と細菌とが接触していない状態で観察された。これは,細菌が菌糸伸張を助長する何らかの物質を出していると考えられた。 以上のように,本研究の初年度において,木材腐朽菌の菌糸成長に影響を及ぼすバクテリアを森林内の腐朽木材から単離するという最大の課題を達成することができた。
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