樹木木部柔細胞は、転流物質の輸送と貯蔵や心材物質の合成と蓄積など樹木の様々な生理機能を持つと考えられているが、樹体内での実際の機能は分かっていない。樹木木部柔細胞の樹体内での機能の解明を最終目標に、本課題では、木部柔細胞の細胞齢による機能の変化を細胞の成分蓄積特性の細胞レベルでの解析から明らかにすることを目的として行った。 今年度は、まず、名古屋大学生命農学研究科で開発されたクライオTOF-SIMS/SEMシステム(科研費基盤S、21228004:代表福島和彦教授、本課題代表者は連携研究者として参画)を用いた解析のために、昨年度に引き続き装置の高度化を行った。試料調整を行うグローブボックス内の温度を安定して冷却できるよう改良を行うとともに、TOF-SIMSの試料台を新規に設計し試料冷却能力を改良した結果、水を含む樹木木部を凍結した試料について、安定した測定が可能なった。次に、昨年度に引き続き、TOF-SIMS、Cryo-TOF-SIMS/SEMシステム、FE-SEM/EDXによる定性分析、レーザーマイクロダイセクション法と化学分析法を組み合わせた定性かつ定量解析により、木部細胞の成分蓄積特性を解析した。得られたこれまでの結果を総合的に検討した比較した結果、辺材外側(分化中)、辺材中央、移行材の柔細胞で成分に違いがあることを明らかにした。以上の結果は、木部柔細胞は細胞齢の違いにより成分が異なることを示しており、このことは細胞齢により木部柔細胞の機能が変化することを示唆している。
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