Saccharina japonica の野生株と培養株を用いて、環境条件依存性のタンパク質の探索を行った。野生株は、藻場の衰退が報告されていない地域、藻場の衰退が進行していると考えられる地域、磯焼けが報告される地域から採集するとともに、藻場の衰退に関わる環境要因の調査を行った。環境調査の結果、各地域の環境水のpH、塩分、溶存酸素量には有意な差が認められなかった。しかし、健全域に対して、衰退域と磯焼け域の水温は年間を通じて1-3℃ほど高かった。また、各種栄養塩濃度は、各地点で大きな差異が認められたが、その優位性は海水の採水時期によって変わり、一定の傾向は見られなかった。 地点間で差異が認められ水温と栄養塩濃度が本種の生育に影響を及ぼすことが推察されたため、これらの環境条件の変化に伴って発現量が変化するタンパク質の探索を行った。衰退域の個体について、生育に適した条件で中間育成して実験に供した。短期間のストレス(高温・貧栄養)を与えた胞子体からタンパク質を抽出し、アクリルアミドゲル二次元電気泳動によって、タンパク質を分画した。温度試験区全体で、1633のスポットが得られた。水温の上昇に伴って増加した、あるいは20℃,25℃,30℃の高水温環境でのみ発現するスポットが220検出された。その中で、特に発現量が多い29のスポットについては、その種類や機能については今後の研究課題である。一方、いずれの条件においても発現しているスポットが、120見つかっている。これらは、培養条件に応じた変化が認められなかったが、概して発現量が高く、重要な機能を持ったものであることが示唆された。通常の培養液の2-4倍量の栄養塩を添加して培養した個体については、特異的なスポットが検出されなかったが、貧栄養の試験区ではいくつかの特異的なスポットが検出されており、環境ストレスを検出するマーカーとして期待される。
|