研究概要 |
近年,温帯域に属す本州太平洋沿岸域においても熱帯・亜熱帯域性の食中毒である"シガテラ"が,度々発生するようになった。これは,本来は熱帯・亜熱帯性であり海藻に付着して生活しているシガテラ原因底生性有毒渦鞭毛藻Gambierdiscus属が本州沿岸域で生息しているためである。しかしながら,当該海域における本属の分布状況や現存量についての知見すらないのが現状である。そこで本研究課題は,シガテラ中毒の将来のリスクを評価する基盤として,詳細な現場調査や室内実験を行うことにより,温帯海域に生息するGambierdiscus属の生理・生態学的特徴を解明することを目指す。 平成22年度においては,上記目的のため,まず英虞湾の湾口部に近い浜島に調査点を設け季節消長調査を行った。この調査点において毎月,潜水により各種海藻類を採取し,Gambierdiscus属の海藻への付着密度(cells g^<-1>:海藻湿重量1g当たりの付着細胞数)を調べた。このGambierdiscus属の細胞は本研究による遺伝子解析の結果,これまで記載されたどの種にも該当しないことが明らかとなっており,Gambierdiscus sp.として扱った。これまでの調査により、Gambierdiscus sp.は春季には極めて少なく(各回の調査で採取された海藻類全体における平均付着密度は高いときでも0.1cells g^<-1>程度),時として検出限界以下になるが、水温が高くなる(20-30℃程度)夏季から秋季の時期(7-10月)に増加する(平均付着密度は高いときには7cells g^<-1>以上)ことが明らかになった。なお,水温が約11℃近くまで低下する冬季においても、現存量は少ない(平均付着密度は低いときには0.02cells g^<-1>程度)ものの細胞が確認された。また,紀伊半島沿岸域におけるGambierdiscus属の分布を明らかにする目的で,三重県から和歌山県にかけての沿岸10地点で潜水調査を既に(2009年9月)行っていたので,今年度はそれらの試料を解析した。その結果,それぞれの地点で海藻類への付着密度の差はあるものの紀伊半島沿岸域にはGambierdiscus sp.が広く分布していることが判明した。
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