研究概要 |
温帯域に属す本州太平洋沿岸域において熱帯・亜熱帯性の食中毒である"シガテラ"が,以前より発生している。これは,本来は熱帯・亜熱帯性であり海藻に付着して生活しているシガテラ原因底生性有毒渦鞭毛藻Gambierdiscus属が本州沿岸域で生息しているためである。しかしながら,当該海域における本属の分布状況や現存量についての知見すらないのが現状である。そこで本研究課題は,シガテラ中毒の将来のリスクを評価する基盤として,詳細な現場調査や室内実験を行うことにより,温帯海域に生息するGambierdiscus属の生理・生態学的特徴を解明することを目指す。 本研究の主な調査対象域である三重県英虞湾湾口部・浜島の藻場から単離したGambierdiscus属の細胞は,平成22年度に行った分子系統学的な解析の結果,遺伝的に既報の系統とは異なる種であることが判明したので,本研究課題ではそれ以降Gambierdiscus sp.として扱った。平成23年度においては,同藻場から得たGambierdiscus sp.株を用いて,その増殖と生残に及ぼす水温の影響を室内培養実験により調べた。その結果,Gambierdiscus sp.の増殖好適水温は20~30℃であり,最大の増殖は30℃で得られることが明らかとなった。また,本種は10~15℃では増殖しないものの,10℃で少なくとも2ヶ月程度は生残できることが判明した。この結果は,平成22年度から平成23年度にかけて実施した「浜島の藻場における本種の季節消長調査」より明らかになった"水温が20℃以上で細胞は増加し,水温が10℃近くなる冬季にもわずかに検出される"という周年にわたる本種の出現機構を無理なく説明するものとなった。さらに,室内培養実験では,本種の増殖に及ぼす塩分と光の影響についても評価することができ,本種の物理的環境要因に対する生理的な応答を総合的に明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現場調査では天候に恵まれ,予想以上の数のサンプルを採集できた。また,室内での培養実験においては,平成22年度に現場調査域より単離した細胞株が順調に生育したため,確実にデータを取得することができた。
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