<意義、実験方法と研究成果及びその重要性> 魚類は色覚が発達しており、成魚では色情報が視物質(オプシン)を介し、性ホルモンの合成、性行動を誘導する例も知られる。しかし、色覚が魚類の性、成長にどのような影響を及ぼすのかはほとんど解明されていない。そこで本研究では、発光ダイオード(LED)光源を用いた単一波長環境下で孵化直後からトラフグを飼育し、個体の成長および生殖腺の発達を調査すると同時に、脳内でさまざまな作用を行うエストロゲン(E2)の合成を制御するアロマターゼの発現、局在、活性機構についての解析を進めている。本年度は色刺激として、単一波長(赤色光625 nm 0.5kLux)でトラフグ稚魚の飼育を行い、成長と性分化について調査を行った。また、抗脳型アロマターゼ抗体を作製し発現部位の特定をおこなった。赤色光で飼育したトラフグは自然光に比べ、照射後1週間で体長にばらつきが確認され、その後もその傾向はつづいた。3か月飼育後生殖腺の雌雄判別を行った結果、赤色光によって性比に偏りはなく、ゲノム情報から得られた遺伝的性と表現型性は一致した。このことから、赤色光は性分化に影響を与えないが、初期成長に影響を与えることが示唆された。今後、青色光も用いその影響をより詳細に調査する。また、トラフグ脳型アロマターゼ抗体を作製し、その特異性を調査した結果、脳型アロマターゼは成魚では終脳と視索前野に主に分布していた。これらは視神経の情報伝達に関与する部位と一致していた。現在、in situ hybridizationも行い、色覚と成長の関係について調査中である。また、トラフグにおいて脳型アロマターゼの成熟精子での発現を確認した。これは哺乳動物精巣でのアロマターゼ分布と一致しており、重要な知見と思われる。
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