昨年度までにトラフグ仔稚魚において色波長がその成長や行動に影響を与えることが示された。特に赤色が攻撃的な行動を誘導する結果を得ている。ゼブラフィシュ等の小型実験魚の報告ではエストロゲン受容体(ER)の発現が高い個体と攻撃性の連鎖が示唆されている。トラフグではERの解析報告がないため、最終年度は成魚トラフグを用い、脳における(1) 脳型アロマターゼ(Cyp19b)の脳各領域での活性、(2) Cyp19bおよびエストロゲン受容体の定量PCR法における解析を行い、来年度以降の色波長研究を分子レベルで解析するための研究基盤を構築した。(1) 脳型アロマターゼの活性測定では脳組織(脳下垂体・終脳・視床下部下葉)の凍結保存状態によってその活性は著しく低下することが明らかになったため、新鮮なサンプルを用いELISA法によるエストロゲン変換活性を測定した結果、未成熟期では常に雄が雌より高い活性を持つことが明らかになった。この結果は血中エストロゲン濃度の動態と一致した。(2) エストロゲン受容体をゲノムデーターベースからサーチした結果、トラフグのエストロゲン受容体はERα、β1、β2 と膜型結合性のGPR30、およびリガンド結合性のないEstrogen related receptors (ERRγ1、γ2、δ、A,B1、B2)とに分類できた。未成熟期での脳各領域でのリアルタイムPCRで相対定量を行った結果、アロマターゼの発現領域と一致するERはERα、β1、β2 であり、特にERαとβ1がアロマターゼ同様、脳下垂体で高い発現が見られた。ERRは脳下垂体や終脳で高い発現をするタイプは見つからなかった。以上の結果はアロマターゼとERの発現はリンクしており、各遺伝子転写調節領域に存在するER応答配列(ERE)を介した自己増幅ループでの転写による制御を示唆するものである。
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