研究概要 |
浮遊性細菌群集の呼吸は水中の有機物分解・無機化を駆動するとともに,閉鎖的な水域では貧酸素水塊形成の原因にもなる.しかし細胞レベルでの細菌の呼吸活性の変動や,制御メカニズムについては不明な点が多い.本年度は,有明海だけでなく大村湾も調査対象に加え、浮遊性細菌群集の呼吸活性を単一細胞レベルで解析し,細菌群集による水柱の酸素消費活動の実態解明を目指した. 2011年及び2012年の夏季(7月~10月)に大村湾と有明海において海水を採集し,5-cyano-2,3-ditolyl-2H tetrazolium chloride(CTC)による呼吸鎖脱水素酵素の活性染色後,flow cytometerを用いて細菌細胞を分析した.呼吸活性の高い細胞集団の割合(H-CTF)を求めるとともに,水柱における溶存酸素濃度の鉛直的な勾配(△O2),及び他の環境因子(水温,塩分,クロロフィルa (Chl.a)量,DOC)とH-CTFとの相関を求めた. その結果、大村湾底層および有明海においてH-CTFと△O2との間に正の相関関係が見られ(大村湾底層: r=0.71, 有明海; r=0.30, p<0.05),個々の浮遊性細菌の呼吸活動が水柱における溶存酸素濃度勾配の形成に寄与することが示唆された.大村湾底層では,H-CTFと他の環境因子との間に相関が見られなかったのに対し,有明海ではH-CTFと塩分の間に負の相関(r=-0.44, p<0.05),Chl.a量との間には正の相関(r=0.59, p<0.05)が認められ,両海域において浮遊性細菌群集の呼吸活性の制御機構は異なると考えられた.特に有明海では,河川水の流入が内部生産の増大をもたらして浮遊性細菌群集の呼吸活性を高めることが示唆され,有明海における塩分成層の強化と貧酸素水塊形成の関連を支持する結果となった.
|