研究概要 |
海洋生活期の餌環境を推定する目的で研究室に保管する岩手県産シロザケの鱗の時系列標本を用いて、炭素、窒素安定同位体比分析を行った。年輪帯ごとに切り離して分析を行ったところ,年齢が高い年輪帯では窒素安定同位体比が高くなる傾向があった。このことは,年齢とともに体サイズが大きくなり,当該海洋生活期に利用できる餌の栄養段階が上昇したことによる可能性がある。一方,耳石等の硬組織の無機炭酸酸素安定同位体比は生息水温を指標するとの説がある。しかし,耳石に較べ鱗の無機炭酸含有量は少なく本手法による分析が困難である。この問題点を克服するための方策を検討した。その結果,コールドトラップを活用し分析ガスの濃縮を行うことにより無機炭酸の酸素安定同位体比分析精度の向上をはかることができた。 これまで調査を行ってきた岩手県の3河川において,現場調査により体長・体重・年齢データを収集した。本年度の岩手県へのサケの回帰尾数は大幅に減少し昨年度の半分となった。この原因を明らかにするために測定結果を分析中であるが,少なくとも年齢別の体サイズには例年と大きな差はなかった。 無機炭酸の酸素安定同位体比測定により水温を推定する本手法が,他の水産重要種へ応用が可能かアワビを例として検討した。分析機器の不調により,分析精度に問題があったが,飼育水温の変化に対応した酸素安定同位体比の変化が認められた。このことから本手法は硬組織を用いた水温環境推定に広く応用できる可能性がある。
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