近年、東北地方へのシロザケの回帰は低い水準にある。東北地方での漁獲の大半を占める岩手県では、盛期である1980~1990年代には毎年1200万尾を越えたが、2000年代に入ると800万尾前後に低下し、最近2ヶ年では300万尾と盛期の1/4以下の漁獲となっている。シロザケへの依存度が高い岩手県の水産業にとっては、震災復興にも悪影響を及ぼしている。本研究は、安定同位体比を用いて環境履歴を復元しシロザケ資源減少の要因を検討することを目的とする。 岩手のシロザケを用いて筋肉と鱗最外輪との安定同位体比を比較したところ、窒素および炭素安定同位体比いずれにおいても両者に正の相関が見られた。筋肉は近い過去から最近までの餌の平均的安定同位体比を反映することが知られている。それゆえ、この結果は鱗を用いても安定同位体比を測定することにより過去の餌履歴の推定が可能であることを示唆するものである。 さらに、岩手と北海道に同一年に回帰したサケの鱗を材料として、年輪帯ごとに切り分け安定同位体比を測定した。両地域ともに年輪帯間で窒素・炭素安定同位体比に差が見られた。特に両地域とも窒素・炭素安定同位体の両方がともに海洋生活年2年目で低かった。この時期はベーリング海への移行期にあたる。この海域では食物段階の低い、すなわち餌料効率の低い餌に依存せざるを得なかったのかもしれない。また、地域により成長に沿った安定同位体比の変化傾向には差があった。このことはシロザケは生まれた地域によって餌の履歴が異なる可能性があることを示している。
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