研究概要 |
カワウPhalacrocorax carboによる内水面有用魚種への食害の防止対策として駆除が有効か評価するため,伊豆半島狩野川流域に生息するカワウの生態調査を実施した.本年度は,目視観察による個体数調査,駆除検体の胃内容物調査,および安定同位体比分析による採餌履歴解読において成果を上げることができた.駆除検体の胃内からは,狩野川水系中・下流域の優占種であるウグイの他,アユやアマゴなどの種苗放流魚が検出された.また,駆除検体の筋肉,肝臓,および血液の安定同位体比から計算された餌生物の同位体比推算値は,狩野川産淡水魚の安定同位体比分布と合致していた.このように,胃内容物組成に基づく一時的な摂餌情報の面からも,安定同位体比に基づく食性の蓄積情報の面からも,狩野川水系の淡水魚がカワウの主要な餌生物になっていることが示唆された.狩野川水系では,カワウによる食害が起きているものと考えられる.平成22-23年度の個体数調査の結果からは,狩野川中・下流域が夏季から初冬にかけての時期にカワウの主要採餌場となっていることが示唆された.コロニー内の個体数は集中駆除の直後には一時的に減少したが,一ヶ月以内に回復した.また,中・下流域および河口域の個体数は,駆除実施時期には顕著に増減しなかった.したがって,狩猟駆除はカワウの生息地利用に大きな影響を及ぼさないことが示唆された.狩野川水系におけるカワウの食害については,駆除以外の防除対策を検討する必要があるものと考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
本年度も駆除検体を収集して胃内容物組成と安定同位体比の分析を実施することにより,採餌活動の経年変化があるか検討する.また,個体数変動の補足調査を繁殖期と非繁穂期に数回実施し,生息地利用状況の経年変化を検討する.過去二年間において有効な成果が得られていないテレメトリー調査と望遠観察調査については,調査場所を変えて再試行を試みる.
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