「目的」生体内エネルギー物質のATPについて、1.ATPによる筋肉タンパク質の変性抑制機序の解明、2.水産物の筋肉中のATP濃度とタンパク質編成との関係、特に、凍結保存時の編成速度に及ぼす影響について明らかにすることを目的としている。水産物の筋肉タンパク質は不安定であり、高品質な凍結保存を行うための条件設定など新しい加工処理技術の構築への応用が期待できる。 「研究成果」 1.魚類ミオグロビン(Mb)は、鮮度低下や-20℃のような温度帯で保存すると、ヘム鉄が2価から3価に酸化されてメトミオグロビン(metMb)が生成する。metMbは褐色を呈するため、これが蓄積すると刺身としての商品価値を失う。メト化抑制法の開発が水産業界から強く求められている。本研究において、生理的な濃度のATPが存在すると、Mbのメト化進行は強く抑制されることが明らかとなった。ATPによるMbメト化抑制機序については、ATP存在下におけるMbの可視部吸収スペクトル、CDスペクトル、Mb蛍光の変化および動的散乱光による分子径分析、表面電荷測定により、ATPが存在するとMbの分子状態が変化(小さい構造をとる)することが確認され、これがMbのメト化抑制に作用していると推察している。ATPが筋肉中に残る状態で凍結保蔵すると、メト化が遅くなることを実際の魚肉でも確認することができており、水産業界での応用が期待される。 2.マグロ肉で用いられているMbメト化測定法では、魚種が異なると正確なメト化率が測定できない問題があったので、マグロ以外の5魚種Mbのメト化率測定方法を構築した。 3.ATPは、筋小胞体Ca-ATPaseの熱安定性、および酸性pHにおける安定性を高めること、および魚種によりその安定性は異なり、生息水温の高い魚種で安定であることを確認した。
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