研究概要 |
本年度は,ナラティヴ・アプローチによって世代間継続要件について,前年度に構築した実証モデルを適用し事例から探ることを目的とした。分析枠組みは,主として野家啓一の物語り論を拡張した風景物語り(出来事を文脈の中に配置し時間的列に並べて共有できる物語りとしての風景を語る)を共同言語行為(皆で語る)として捉え,それを語り継ぐことによって皆のものになり,規範化することで個人の物語りを語り合い共通(組織)の物語りになるといった考え方を織り込んだ実証モデルに『身体性』を考慮した授業実験により上記要件を検討した。 今回の授業実験結果より,修士1年よりも学部1年の方が創作舞踊を演ずる演者のからだの動きを身体で受けとめ(聴き),さらに,廣松渉の「共振的同調」を通して創作舞踊を理解している可能性があるという示唆が得られた。創作舞踊を演者と学部学生の一部の者とが「共振的同調」によって影(自我)と自己とを結びつけて互いの統合を図るだけでなく,演者の影と観客(学生)の影とが,また,観客同士の影も結びつき,舞踊の世界が講義室という「現場(フィールド)」で作られたといってよい。 我々は,単に知識を付与するという従来の教育的視点に加えて,今回の実験による身体性の観点を考慮したとうした体験こそが感性を豊かにし,多面的なモノの見方ができるようになるといったことが世代間継続要件の一つである可能性が示唆できた。 なお,分析的な枠組みとしては,農場(フィールド)における作業に関わる身体性をも取り扱うことができる一般的な形を提示したが,具体的な分析については新たな課題として挙げられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の対象は,昨年度の東日本大震災により大きく被災し,また,TPPに対応するため緊張した経営の環境に晒されているため,調査を継続することが困難な状況であったから。
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