1.19世紀南フランスにおける土地改良組合について、とりわけ堤防建設と灌漑施設の整備を目的とするものを対象として、それに関わる自然・技術・制度・社会の相互関連の総体的な把握を目指した。まずは、南フランスにおける土地改良の実態を、灌漑や堤防の建設を焦点にして明らかにし、ついで、土地改良組合制度とその変化について検討した。そして、主たる対象地としているオート=ザルプ県の4つの組合を事例として、土地改良組合の構成や運営、紛争や軋轢の実態を明らかにした。さらに、組合の運営や紛争において、制度的枠組みを担保する国や行政とどのようなかかわりを持ったのかを検討しつつ、農村部・農業界から制度改革の意見が出され、それが実現していく過程の分析を行った。これら分析をまとめた結果が、『堤防・灌漑組合と参加の強制』と題された学術著書として、近く、御茶の水書房から出版される予定である。 2.デュランス川上流域のオート=ザルプ県との比較分析をめざして、当川の下流域に位置するヴォクリューズ県の文書館において関係史料を収集した。当県の農業経済、農村社会などに関する分析を行いつつ、山岳地に位置し、牧畜経営がより大きな比重を占めるオート=ザルプ県と異なり、野菜、果樹などの集約的な農業経営が展開していること、また、オート=ザルプ県と同様に堤防や灌漑に関わる土地改良組合が多く見られるが、その規模は、より大きなものになっていることなどを明らかにした。 3.テーマの中に水利の問題を掲げた第10回東アジア農業史国際学術会議に参加し、「19世紀フランス・南アルプ地方における灌漑組合」と題して研究発表を行った。国際的な学術討議を経ることによって、研究内容を高めることができた。
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