1.これまでの研究を受けて、2011年度には、荒廃山岳地の復元・保全政策の特徴を明らかにしつつ、土地改良組合制度の展開との比較を行なった。 2. 荒廃山岳地の植林、草地化、復元・保全事業に関わる制度的枠組みを明らかにするために、官報に収録された議会議事録や報告書、関係法令集、行政法事典、法律マニュアルを中心に、一橋大学付属図書館等で資料を収集し、分析した。 3.南部フランス山岳地(アルプ、中央山岳地、ピレネー)を対象に行われた1878年の荒廃山岳地の植林と草地化に関する調査報告書と、荒廃山岳地の復元・保全事業に関する1911年の調査を分析した。事業の進展や問題点を明らかにし、主たる研究対象地のオート=ザルプ県の特徴を浮き彫りにした。そして、オート=ザルプ県で活躍した技師シュレル、セザンヌ、ブリオ、ビュフォーらの著作を分析し、山岳地の植林に関する1860年法、草地化に関する1864年法、山岳地の復元・保全に関わる1882年法の実施状況や問題点、政策提言などを分析した。 4.オート=ザルプ県文書館でも史料調査を実施した。特に、山岳地の復元・保全事業に関連する史料(文書館整理番号P所蔵)、農村経済、畜産経営、酪農組合と事業との関係を明らかにしうる史料(整理番号M所蔵)、県会議事録(整理番号N所蔵)の解析より、事業の実態把握とともに、事業に対する農民の抵抗、下からのベクトルとしての制度改革の提言、それに対する政策当局の対応と妥協、農村経済の活性化策の提言、畜産における放牧経営の転換、酪農組合の展開などに焦点を当てた分析を行った。 5.以上より、荒廃山岳地の復元・保全政策の特徴を明らかにしつつ、土地改良組合制度の展開との比較を行うことで、研究対象地オート=ザルプ県の自然・技術・制度・社会の相互関連を解明した。
|