今年度の調査は、主として国内事例の調査研究に重点をおいた。我が国で2007年度から進められている農地・水・環境保全向上対策はEUと異なり、地域の組織・団体に対する支払いをおこなうもので、我が国のとくに水利を中心とする農村の集団的行動にそぐう形で、制度発足以来かなりの実績をあげてきた。制度開始後5年たって2013年度からは、集落を支える体制の強化や、水路等の施設の長寿命化、水質・土壌などの高度な保全活動への支援を拡充するなど、長期を視野にいれた対策への転換が図られている。調査は、そうした地域の長期的な環境保全の主体となり得る団体として、NPOとしての登録を行った団体が活動する地域をとりあげた。そのような団体は、全国でもまだ10団体程度であり、そのうち(秋田、福島、滋賀2、鹿児島、山口)計6地区の団体について、組織の立ち上げの背景、活動、経費の仕組み、活動と制度との関係などについての調査を行った。農業環境政策の進展、そして地域の環境意識の強まりと共に、ある程度自立的な組織が存在しうるのではないか、というのが調査前の想定であった。しかし、数少ないNPOの発足にあたっては、各NPOとも、行政主導的な性格が強く、昨年度のオランダの場合と比較して地域における主体的な活動の端緒を確認するには到らなかった。財政的にも脆弱で、活動そのものも参加者も、大半は制度の枠組に沿ったものであると判断できる。 とはいえ、オランダの場合でも、事情は異なるが、主体的な活動力が高いと判断される場合でも、農業環境政策の実施が、結果的に地域の農家やリーダーたちを動かし、活動を制度に乗せながら、長期間持続させていると見られ、地域の様々な活動と連携した施策の総合的な組み立ての必要性を検討した。
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