平成24年度は、農産物貿易の自由化に対し国内生産が生き残れるのか否か、それが直接支払制度によって可能なのか否かを考察するために、以下のような調査、資料収集を行った。これはTPP(環太平洋経済連携協定)参加に向かう日本の農業生産の存続にとって、喫緊の課題である。 1.米の国際価格と日本・韓国の米の生産コストを比較し、3つの方向(米国際価格の上昇、財政負担の増大、生産コストの引き下げ)による存続可能性を考察した。しかし、何れの方向もリスクが高く不安定であり困難であると結論づけた。東アジア農業にとって共通の課題である。本成果については、「研究発表」に示す通り、国際シンポジウムで発表し、図書の一論文として取りまとめた。 2.EUとの比較のためにドイツ・ミュンヘン周辺の穀作地帯を調査した。EUは、次のCAP(共通農業政策)改革により、国際価格水準に引き下げたことに対する補償支払い(直接支払い)を廃止する方向にある。そのなかで、小規模農業地帯のドイツ南部の農業経営は、新たな協同組合をつくり再生可能エネルギー事業に取り組む等により生き残りを図ろうとしている実態を把握し得た。今後さらに、この新たな農業経営の展開に関する分析を進める必要がある。 3.第9回北東アジア農業農村発展国際シンポジウム(共催:鹿児島大学農学部、富山大学極東地域研究センター)を開催し、「北東アジア畑作農業の発展戦略」について、日本・中国・韓国の立場から意見交換を行った。日本・韓国は言うに及ばず、中国も輸入が増える傾向があり、畑作における国際競争力の確保が共通課題となっている。そういうなかで規模拡大による方向のみでなく、社会的農業による方向も必要だとの共通認識を得た。
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