研究課題/領域番号 |
22580245
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
足立 芳宏 京都大学, 農学研究科, 准教授 (40283650)
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キーワード | 農業史 / 農業経済学 / ナチス農政 / ドイツ農業 / 入植政策 / 農業構造政策 |
研究概要 |
(1)まず昨年度収集した資料に基づき、戦時のナチス併合地ポーランド地域の農民入植政策の実態の分析を行い、その成果を『生物資源経済研究』(京都大学)に研究論文「「民族ドイツ人」移住農民の戦時経験」として公表した。ここでは入植者の中核となった「民族ドイツ人」農民の視点から、出郷、収容所での「選別」、入村時のポーランド人農民の追放と農地・家屋の割り当てられ方、入植村落内での「土着ドイツ人」との対立、ポーランド人農業奉公人の管理に伴う農婦の苦悩・不安などについて論じた。 (2)本研究を進めていく中で、戦時のナチスソ連占領区の農業・食糧政策のありようが新たなテーマとして浮かび上がってきた。そこで2012年3月12日~16日に行ったベルリン連邦文書館おける現地資料調査においては、(1)戦時ウクライナなどにおけるナチ占領当局の農業・食糧政策の実態報告、(2)占領政策の末端でコルホーズの再編と管理を担った「農業指導者」、(3)全国食糧職能団による農業技術者(農業指導者を含む)の養成、以上に関する史資料の調査・収集を行った。(1)に関しては史料が膨大であったために閲覧が一部にとどまり、(2),(3)については逆にまとまった文書がほとんど見つからなかった。この調査は次年度も続ける予定である。 (3)戦時の西南ドイツ地域の農業構造改革に関しては、関連研究文献の読み込みを通して(1)東部ドイツの入植政策との連動を意識しつつ、耕地整理事業などの団地化や上層経営への農地集積が図られたが、同時に一部過小農の強制疎開や農村整備事業と一体化した農村計画として構想され、かつ一部が実施されたこと、(2)しかし他方では地方小工業化を軸とした農村開発計画が構想されたところでは、逆に「労働者農夫」の形成が政策的に意図されるなど、地域的なばらつきが見られたことが確認された。また同時に農学者全体がナチスの農業開発計画に対して自発的に動員されていったことも確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
戦時ナチス併合地農民入植政策については、昨年度までにある程度史料が収集できていたこともあり、順調に論文化することができた。他方で「農業技術者」の存在が戦時と戦後をつなぐ存在として浮上したため、戦時占領地の史料調査に力を注ぐことになった。このために戦後西ドイツの農業構造政策に関する史料調査への着手がやや遅れることになった。
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今後の研究の推進方策 |
ナチ占領地ソ連の食糧・農業政策は、「農業指導者」論をこえて重要なテーマなので、来年度も引き続き史料調査を継続し、研究論文化できるだけの史料を収集し、その分析にあたる。戦後よりも戦時に重心が偏ることになるが、それでもこちらのテーマを優先したい。また、戦後西独の農業構造改革については、想像以上に既存の独語研究文献があるので、それに目を通したい。そのうえでコブレンツ連邦文書館などで関連史料の収集にあたりたい。以上のために現地調査期間を3週間ほどに延長し、かつ、それでも不十分な場合は別途補充調査を行いたい。
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