本研究課題は、国連機関の役割に注目しながら、農業・食料のグローバル・ガバナンスをめぐって錯綜する利害関係主体の対立と調整の過程を歴史的・構造的に明らかにすることを目的としている。2010年度は、第1に、国連を中心とする国際人権レジームの到達点と課題を明らかにするため、「食料への権利」論に関する国際法・国際政治経済学分野の研究動向を、文献調査および関係機関(FIAN International事務局:ドイツ、Wageningen大学研究者:オランダ)へのヒアリング調査を通じて整理した。その成果は「国連『食料への権利』論と国際人権レジームの可能性」としてまとめられ、刊行図書の一部として発表された。また、この成果をもとに、市民社会組織や研究者、外務省食料安保担当者等との意見交換の場で、バイオ燃料問題や大規模農業投資(農地争奪)問題を考える視点を提示するなど、「食料への権利」論の理論的および政策論的な応用可能性を確認することができた。第2に、国家・国際機関や多国籍アグリビジネスに加えて、問題領域ごとや領域横断的にネットワークを形成しながら国際社会で発言力を高めている市民社会組織の、農業・食料のグローバル・ガバナンスにおける役割と課題を明らかにするために、本研究課題より以前から取り組んできたオランダ市民社会組織に対する調査を続けながら、その成果の一つとして、「フードポリティクスを見据えた市民社会組織の新たな挑戦:オランダを中心に」を発表した。そこで注目したオランダ市民社会組織のアプローチ-企業の社会的責任(CSR)を掲げる多国籍アグリビジネスと協働するラウンドテーブル方式、社会的・倫理的・環境的な生産調達基準の規格認証化とそのメインストリーム化-が、法規範の厳格な適用によって国家・国際機関・多国籍企業の国際的義務の履行を追及する「食料への権利」論や国連多国籍企業行動規範に照らしてどのように評価できるのかが、新たな課題として析出された点は、次年度に向けた大きな成果である。
|