研究課題/領域番号 |
22580246
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
久野 秀二 京都大学, 経済学研究科, 教授 (10271628)
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キーワード | 国連:人権理事会 / 国際人権レジーム / 食料への権利 / 多国籍企業 / 市民社会組織 / グローバルガバナンス / 社会権規約 |
研究概要 |
本研究課題は、国連機関の役割に注目しながら、農業・食料のグローバル・ガバナンスをめぐって錯綜する利害関係主体の対立と調整の過程を歴史的・構造的に明らかにすることを目的としている。2011年度は(1)国連人権理事会を中心とする国際人権レジームの到達点と課題に関する関係機関へのヒアリング調査、および(2)国際人権レジームと多国籍企業規制に関する国際法・国際政治経済学分野の研究動向調査、そして(3)最終年度フィールド調査のための準備作業を行う予定にしていた。 (1)については、「食料への権利」をはじめとする社会権の理解を深めるため、11月下旬に「ジュネーブ国際人道法・人権アカデミー(ADH)」主催の経済的・社会的・文化的権利(いわゆる社会権)に関する研修コースに参加した。国連人権理事会の関係者、国際人権法の専門家、司法活動団体や市民社会組織の関係者による講義、国連社会権規約委員会の傍聴、ケーススタディや模擬審議などを通じて、社会権の理論的可能性と実践的困難を学ぶことができた。社会権が権利である以上、権利主体である諸個人へのまなざしだけでなく、権利を尊重・保護・促進する義務主体である国家(政府機関)のあり方が鍵となる。 とくに国際政治経済学の観点からは、グローバル社会においては国家間関係の深まり(IMFやWTO等の国際経済機関の役割の増大)と国境を越えた経済活動の広がり(多国籍企業の影響力の増大)の下で引き起こされる社会権の侵害に対して、国際人権レジームがいかに対処しうるのか(「域外適用義務」や「司法判断適性」)が課題となる。それは多国籍企業の行動規範を法規制(法制度)によって確立するのか、自主規制(市場)によって追求するのかという問題に関わる。この課題は多くの社会科学諸領域にまたがるが、主な関連文献資料は収集または所在確認できた。 (3)については、平成24年度前期に在外研究のためオランダに滞在することになったので、その期間に遂行する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書の段階では計画として記載したものの、最初の研究計画調書の段階では想定していなかったジュネーブの社会権研修コースに参加できたことは、専門家や実務家の経験や考えを学べたというだけでなく、本研究課題で取り組むべき理論的諸課題や具体的なケースに関連する資料にアクセスし、収集するうえでも重要であった。研修に参加する以前にすでに予備的考察を論文のかたちで発表していたが、最終年度のとりまとめに向けて、より認識を深めることができた。その一方で、当初予定していた、もう一つの柱である多国籍企業行動規範に関するフィールド調査の準備作業は相手があることなので思うように進んでいない。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度前期にサバティカルを取得し、在外研究のため主な調査対象地であるオランダに滞在することになった。これまでは教育活動や学内業務の多忙な時期に海外渡航調査の準備をしなければならず、多くの場合に準備不足を否めなかったが、在外研究期間中に研究動向調査はもちろん、関連機関へのヒアリング調査を集中的に行う。なお、国際人権法の適用可能性とCSR等の自主的行動規範の有効性を検証するために当初計画で予定していたユニリーバ社の事業活動に関するフィールド調査の実施については、なお不確実性をともなっている。オランダに本社があるので、在外研究期間中にあわせて検討したい。
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