本研究は、国連機関の役割に注目しながら、相次ぐ「世界食料危機」状況と中長期的な食料需給逼迫見通しを前に農業・食料のグローバル・ガバナンスをめぐって錯綜する利害関係主体の対立と調整の過程を歴史的・構造的に明らかにすることを目的としている。最終年度にあたる本年度は、これまで明らかにしてきた農業・食料のグローバル・ガバナンスの全体構造と、「食料への権利」論をはじめとする国際人権レジームや食料主権運動の到達点と課題を踏まえ、世界の食料安全保障に肯定的にも否定的にも大きな影響を及ぼす存在である多国籍アグリビジネスの行動規範に関する研究動向調査を進めた。 具体的には、①オランダ・アムステルダム自由大学社会科学部の国際政治経済学グループの下で実施した在外研究を通じて、多国籍企業規制に関する理論的・実証的研究の知見を得た。②オランダ市民社会組織が重視する「農産物原料の倫理的調達」イニシアチブ等の動向を調査し、当該問題に詳しいユトレヒト大学の研究グループと意見交換を行った。③国際人権レジームに関連する研究動向を、国際研究学会への参加等を通じて調査した。④「食料への権利」論に関わって国際機関・多国籍企業の国際的義務履行の必要性を謳うNGO・専門家グループと意見交換を行った。⑤以上の作業と並行して、TPP等の自由貿易・投資協定をめぐる政策形成過程で多国籍アグリビジネスが行使する政治的・言説的な影響力を具に分析し、日英両言語で論文を執筆した。 なお、多国籍アグリビジネスの行動規範に関わって、当初予定していたユニリーバ社に関するケーススタディを実施できなかった。この残された課題についても引き続き取り組むとともに、平成25年度に新たに採択された研究課題「アグリフードレジーム再編下における海外農業投資と投資国責任に関する国際比較研究」(基盤研究B)においても様々な事例を取り上げる予定である。
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