本研究の目的は、農業部門を食料(私的財)と環境や景観がもたらす便益(公共財)を同時に供給する産業であると捉えて、従来の「自由貿易論」や「環境評価手法」に依拠することなく、新たな視点から日本農業の存在意義を問うための政策分析を行うことである。そのために、食料と環境財の供給がもたらす得失を共通の土壌で全体的に評価するための新たな枠組みを開発する。その上で、「農業は食料の供給とともに環境や景観の保全にも寄与する産業であり、国民はこの二つの価値に代価を支払うべきである」とする認識の醸成に向けて、「自由貿易論」と「環境評価手法」の架け橋となるような研究領域の構築を課題としている。 平成22年度は以下の3点を実施した。 (1)私的財と公共財を一つの予算制約で統一的に捉えるための枠組みについて、主に公共経済学や財政学の文献を収集・整理して、関連研究をレビューすることで概念を整理した。 (2)私的財と公共財の結合生産物として財の供給を捉えるために、関連文献を収集・整理して概念と手法を整理した。(3)(1)と(2)に基づいて分析の枠組みを構築し、私的財と公共財の配分モデルを作成した。 (3)で構築した配分モデルの特徴は次のとおりとなった。政府が農業と家計部門の単なるエージェントとしての役割を担った場合(小さな政府の場合)は、配分モデルの解は農業部門と家計部門のそれぞれが相手の行動を所与として最適化を図るとナッシュ均衡となる一方、政府が社会全体で最適化を図るための役割を担った場合(大きな政府の場合)は、パレート最適な均衡が実現する。ただし、大きな政府の場合は、農業と家計が供給する資源の一部を政府がガバナンスに消費するので、二つの均衡のどちらが社会的便益をより大きくするか、先験的には決定できない。以上について実態的な意味づけを与えることが次年度以降の課題となる。
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