本研究の目的は、農業部門を食料(私的財)と環境や景観がもたらす便益(公共財)を同時に供給する産業であると捉えて、従来の「自由貿易論」や「環境評価手法」に依拠することなく、新たな視点から日本農業の存在意義を問うための政策分析を行うことである。そのために、食料と環境財の供給がもたらす得失を共通の土壌で全体的に評価するための新たな枠組みを開発することである。 最終年度である平成24年度は、主に以下の3点を実施した。 ①政策シナリオの作成。政策シナリオとして、米作を対象に、環境財供給に特化した補助金の導入を想定した。具体的には作付面積ベースの補助金であり、水稲が作付けられた水田がもたらす多面的機能への補助を意味している。作付地である水田は、コメと多面的機能の生産に関して分割不可能な生産要素であることを仮定している。 ②実証分析。各種の弾力性を外生的に与えた比較静学モデルから、①に示した補助金の導入が環境財を含む生産物市場と生産要素市場、及び社会厚生に与える影響をシミュレートした。その結果、私的財の米作では、土地の派生需要量が増加して地代が18.2%上昇し、コメの供給量が1.4%増加して米価が4.1%下落すること、一方の環境財では、供給増加によって価値額が10.1%増加することがわかった。以上の結果、コメの結合生産物として環境財を評価した場合には、補助金の導入によって社会厚生が24.9%増加することが明らかになった。 ③研究成果の取りまとめ。②の分析結果から、農業が食料(私的財)と環境財を同時に供給する産業である場合、食料と環境財の生産に分割不可能な生産要素に助成することで、社会全体の厚生を改善できる可能性があることを結論として取りまとめた。
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