1.研究の目的:本研究では、2004年以降に本格実施された直接支払、回転備蓄、農業インフラ整備を主な内容とする中国の新しい穀物需給システムについて、市場の統合性と比較優位に応じた主産地の発展と生産構造の効率化という視点からその機能と性格を実証的に解明することを課題している。 2.平成24年度の研究実施計画:(1)前年までの品目別の分析の継続として水稲を取り上げ、兼業深化地域の浙江省を事例に、穀物生産の比較優位の乏しい地域での穀物需給システムの実態についての調査、(2)とうもろこしを対象としたデータ分析、(3)穀物全体を対象とした総括的分析を行うことを計画した。 3.平成24年度の研究実績概要:(1)上記計画のうち、兼業深化地域の水稲を対象とした需給システムの調査は、浙江省慈渓市を選定し、平成24年8月19日から24日の期間に慈渓市政府および産地の機械作業受託組織や大規模稲作農場の事例調査を実施した。その結果、「省長責任制」の枠組みの中で兼業深化地域においても、米の域内自給率の低下に歯止めをかけることが求められ、中央政府の実施する直接支払、価格支持政策に加え、地方政府の独自財源を投入してより手厚い保護を実施していること、そうすることで稲作面積の減少を阻止していることが明らかになった。(2)穀物需給システムの総合的評価については、比較優位に応じた主産地の発展と生産構造の効率化という視点からの統計分析を行った。具体的には『中国県(市)社会経済統計年鑑2011』を利用し分析した。その結果、政府指定の主産地(「食糧大県」)のうち、中部地方を中心とする省に分布する主産地は市場供給能力が高いが、東部沿海地域を中心とする省に分布する主産地は、市場供給能力に乏しいことが分かった。言い換えれば、中国の主産地育成政策は、必ずしも比較優位を考慮したものにはなっていないことが明らかになった。
|