研究課題/領域番号 |
22580264
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
市田 知子 明治大学, 農学部, 教授 (00356304)
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研究分担者 |
石井 圭一 東北大学, 大学院・農学研究科, 准教授 (20356322)
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キーワード | 条件不利地域 / EU / ドイツ / バイエルン州 / 山間地域 / 政策変更 / フランス / 農産物の付加価値 |
研究概要 |
23年度は、ドイツおよびフランスにおいて現地調査を行った。その概要は以下の通りである。 ドイツでは農地総面積の5割強が条件不利地域であり、さらにその9割がEUの政策変更により削減の対象とされている条件不利農業地域である。この条件不利農業地域の約15%(90万ha)が新しい基準により指定が解除される見通しである。調査を行ったバイエルン州では、州中央部の条件不利農業地域を中心に46万haが指定解除される新基準案が示された2009年4月以降、バイエルン州政府は同州の農民連盟とともにEU委員会に対し反対の意を表明し続けている。もともと条件不利農業地域では自然条件が厳しいために収量が低いことに加え、山間地域のような観光資源やツーリズム関連の就業機会もなく、さらに補償金の厚遇もないために、所得は最低レベルにあるからである。バイエルン州政府は、LFA補償金がなくなれば条件不利農業地域でますます離農が進み、田園景観の維持もできなくなることを案じている。現行の仕組みでは所得補償が充分でないため支給額の増大を求めている。1999~2007年の離農率を地域区分別に見ると、条件不利農業地域でのみ州平均の20%を上回っていることからも、今後、LFA補償金削減によってますます離農が進むとの推測は妥当である。 一方、フランスでは、EUの政策変更を受けて、LFA補償金と草地奨励金の統合や、AOC(原産地呼称)等の農産物の付加価値との関連が問題となっている。前者については、現状では草地奨励金の受給者の80%はLFA補償金の受給者であることから、とくに山間地域では両者の統合も検討されている。また後者の農産物の付加価値との関連では、現行の制度でも乳価の違いなど付加価値の大小に応じてLFA補償金額に差が付けられてはいる。たとえば同じ山間部でもチーズのブランド化に成功している県では8245ユーロであるのに対し、成功していない県では8667ユーロとなっている。ただし、ブランド化による利益は生産者よりも食品加工業者が得ていることが多いことから、生産者の手取りを増やす上でもLFA補償金単価をよりきめ細かく設定することが検討されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、予定したとおり、23年9月にドイツにおける現地調査を行い、有益な情報を得ることができた。また、本来、22年に実施予定だったが東日本大震災により急遽、取りやめとなったフランス調査も23年度内に実施した。いずれもその成果の一部をすでに専門学術雑誌等に公表している。
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今後の研究の推進方策 |
22年度の文献調査および23年度の現地調査結果に基づき、研究成果のとりまとめを行う。EUおよびドイツ、フランス各国、各州政府の政策対応やEU委員会との交渉過程を正確に把握するとともに、地域指定の変更が農業経営の所得や農村の多面的機能に与える影響について明らかにする。さらに、日本の中山間地域直接支払制度や農地・水・環境保全向上対策の今後の方向付けに関して時宜を得た情報提供および政策提言を行う。具体的には、研究成果のエッセンスを学会等で発表するとともに、論文にとりまとめ、学術誌に投稿する。また、年度末までに3年間の調査全体から明らかになった成果を報告書としてとりまとめる。これを調査に協力していただいた各機関、個人をはじめこのテーマに関心をもつ研究者・団体に送付する。
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