主要食料輸出国の農業保護措置を定量的に評価し、当該諸国の農産物輸出および国際価格に及ぼす影響を明らかにすることが本研究課題の目的である。本年度はアジア地域では屈指の食料輸出国であるタイを考察対象として、2009年産から実施されている所得保証政策の現状を現地調査し、政府支出や農家の得る便益を金額的に評価するとともに、WTOに通告するAMSとの関連から、本研究の評価としての助成金額、さらに生産刺激効果を評価するための予備的な現状分析を行った。研究成果については農林水産政策研究所のセミナー「食料需給セミナー:タイの食料需給状況」において公開での発表を行った。当日配布した論文・資料は同研究所の下記ウェブサイトにて公表されている。http://www.maff.go.jp/primaff/meeting/kaisai/index.html タイ国を対象とした今年度の研究において明らかになった点は、(1)保証基準価格の水準に依存しつつも、新政策による財政負担が際限なく拡大するおそれがある、(2)農家1戸あたりの保証数量に制限を設けているが、ほとんどの生産者にとっては制限的とはならず、また上限数量を超える生産者の間には名義の分割が横行している、(3)このような生産刺激効果は、とりもなおさず保証基準価格が高すぎることにある、(4)国際市場が活況を呈する中でも補助金が支払われており、結果として、WTO上AMSとして計上しなければならない本政策による補助金額は、すでにUR農業合意の約束水準を大きく上回っているとみられるが、(5)対象数量が実際に生産あるいは販売された数量ではなく、政策当局によってあらかじめ評価された地域の平均的単収に基づいていることから、米国の諸政策と同様に、デカプッリングであると強弁する余地は残されているかもしれない、などである。
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