本研究は、中東欧諸国、東南アジアの移行国の農業部門に焦点を絞り、持続可能な農業発展のために必要となる生産性、生産効率性の変化の決定要因を比較分析・理解し、その結果をもとに政策分析を行い、この地域の移行期経済が持続可能な経済成長をとげるための政策や制度に関する包括的な政策的含意の導入を図ることを目的とした。 具体的には、EUへの加盟という貿易の枠組み・制度の変化や、経済体制・政策転換(ことにASEANやWTOへの加盟など)がもたらした、生産性(TFP)の変化の違い、生産効率性の変化の違い、収益性(standard gross margin)の変化の違い、農家所得の変化の違い、農村における雇用創出力の変化の違いを説明する要因を、中東欧諸国、東南アジアの体制移行国の事例について、国単位で横断的に比較することにより明確化することを目指した。 まず、中東欧諸国においては、EU加盟以後、生産性変化率の差が拡大したことが確認された。ただし、西欧の既存の加盟国においても、同様な変化が見られたことから、差の拡大をもたらした要因の一つは、EUの共通農業政策、ことに2000年以降に導入された農村開発を主眼とするアジェンダ2000によるものであるという結論に至った。一方、アジアの体制移行国においては、ASEANやWTOへの加盟は農業生産性を高め、正の効果を農業部門に与えてきていることが、データ分析で確認された。これらのことから、国際貿易の枠組みの変化、地域的な経済協力体制の強化とその協力内容は、今後の農業生産の推移と農業発展を考える上で重要な役割を果たすであろうことが推測されるという政策的含意の導入をおこなった。
|