研究概要 |
ため池は水生動植物の生息場として貴重な止水域であり,本来,緩やかな勾配の浅場には多様な生物が生息する。人為的な水位低下により干上がりを生じやすい浅場を対象に,干上がりによるトンボ目幼虫の出現に及ぼす影響について検討した。 浅場に15の調査区画を設定して期別の採集調査を行ったところ,6月期は13種45個体で,クロイトトンボ(優占百分率58%),コサナエ(同11%)が多く採集された。7月期は17種95個体で,モノサシトンボ(同36%),クロイトトンボ(同15%)が多く採集された。11月期は13種92個体で,クロイトトンボ(同62%),ホソミイトトンボ(同13%)が優占種であった。11月は再冠水直後での調査であったが,種数・個体数ともに6,7月と同等程度であった。また,ホソミイトトンボ等の幼虫期の短いものと,モートンイトトンボ等の幼虫期が長いものが採集された。このことから,水位低下時により深い水域に移動していた個体が,水位上昇とともに浅場に回帰した可能性が示唆された。 TWINSPANにより,種組成にもとづく調査区画の類型化を行った。6,7月の分析結果より,種数・個体数ともに多かった区画は,(1)抽水植物アシカキの植生密度が高いところ,または,(2)抽水植物カンガレイが優占している区画では,植生密度は平均的であり,堆積物乾燥重量が比較的高いところであった.一方,11月の分析結果より,種数・個体数ともに多かった区画では水生植物掴まり型のトンボ目幼虫が優占していたが,抽水植物の植生密度が低い区画であった。このように,再冠水直後の調査(11月)では,生活型に合致した生活環境とは異なる場所に出現したものがあり,これは水位低下による影響であると考えられた。
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