研究概要 |
ため池浅場を主な生息場とする代表的な水生昆虫としてトンボ目幼虫を取り上げ,灌漑概期において生じる水位変動がトンボ目幼虫の出現状況にどの程度の影響をもたらすかについて,初年年度に引き続き現地調査を行った。 水位変動パターンとしては,初年度は8月中旬から10月下旬において満水位下50~80cmの水位低下が2ヶ月程度発生したのに対し,今年度は4月中旬から8月中旬に最大で50cm程度の水位低下が繰り返し見られた。 期別の出現種を,生活型に応じて水中選好種と水底選好種に分類し,水位変動による影響をそれぞれ検討した。とくに,両年では水位変動に違いが見られ,浅場での露呈発生時期が異なった。そこで,夏期において浅場の露呈が生じた2011年7月の調査結果を,夏期に露呈が見られなかった2010年7月の調査結果と比較し,また,秋期において浅場の露呈が生じた2010年11月の調査結果を,秋期に露呈が見られなかった2011年10月の調査結果と比較した。 夏期についてみると,露呈が生じた2011年7月では4種13個体であり,露呈が発生しなかった2010年7月の4種31個体に比べ,個体数が有意に減少した(U検定,p=0.013)。これは,モノサシトンボの個体数が減少したことが原因であった。秋期についてみると,露呈が生じた2010年11月では3種49個体であり,露呈が発生しなかった2011年10月の6種86個体に比べ,個体数に有意な差はなかった(p=0.615)が,モノサシトンボについてみると,2011年に対し2010年では有意に減少していた(p=0.003)。モノサシトンボの成虫は5月上旬~10月中旬に出現する。この期間において成虫が選好する暗所で露呈が発生したため産卵の機会が失われ,これが同種の幼虫個体数が減少した理由と考えられた。 水中選好種は,露呈後の再冠水によって浅場に回帰していると考えられ,浅場は再び生息場として利用される可能性が示唆された。しかし,モノサシトンボについては,産卵場となる暗所部が露呈にさらされることで,幼虫個体数が減少するという面で影響を受けることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
初年度,2年目に引き続き現地調査を行って,本年度に生じる貯水変動パターンとトンボ目幼虫の出現状況との関係性について検討する。この際,水中選好種と同時に,水底選好種の期別出現状況にも注視し,過去2ヶ年のデータとあわせて,浅場の露呈・冠水状況との関連について検討する。 最終的には,当初目的のとおり,浅場におけるトンボ目幼虫の多様性を保全することを目標とした,農業用ため池の水位制御を達成しうる貯水管理計画について検討するものである。
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