ため池のかんがい期における水位低下が浅場に生息する水生昆虫に及ぼす影響を定量的に明らかにし,水生昆虫の多様性を保全するための貯水管理計画について検討した。今年度は,池底の露呈により大きな影響を受けると予想される砂泥潜り込み型,沈積物蹲り型(以下,水底選好種)に着目して現地調査を行った。また,トンボ目幼虫の多様性を確保するための貯水管理計画について検討した。 水位低下に伴う長期の露呈前では,6月期に6種9個体,7月期では6種21個体であった。これに対して,約65日間の長期露呈が発生し,その後水位回復がみられた11月期においてはフタスジサナエが1個体のみであった。 多化性種および春種についてみると,7月期は2種13個体,11月期は1種1個体であり,種数・個体数ともに有意に減少した(U検定:p=0.022,p=0.018)。このことから,水底選好種の出現は池底の露呈による影響を受けたと推察される。 前年度までの調査結果から,クロイトトンボに代表される水中選好種(水草掴まり型)は広範囲で採集され,露呈が生じても,水位回復に伴って,浅場は水中選好種に再び利用される可能性があることがわかった。ただし,水中選好種が多く出現した区画では,水生植物の植生密度は決して高くなく,本来なら水中選好種に選好されるとは考え難い区画で多く採集された。 以上のことから,池底選好種,水中選好種ともに,水位低下によって引き起こされる池底の露呈により影響を受けることがわかった。水中選好種の出現への影響を抑制するためには,浅場において広範囲に抽水植物等を生育させる方法が考えられた。また,池底選好種に対しては,沈積物が多く堆積している浅場が同種に選好されることから,そのような浅場を対象として堤高50cm程度の堰堤を整備し,放流操作に伴うため池の水位低下とは連動しないように,湛水域を部分的に確保する方法が考えられた。
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