本研究は,魚類の移動障害となる落差工等分断点を多数抱える水田水域において,効率的に魚類個体群の保全,再生を図っていく上で重要となる,ネットワークの配置や求められる機能に関する予測と検討に資するよう,1)ネットワーク化による魚類個体群の再生過程を予測するモデルの構築,2)位置関係等の条件が個体群の再生に及ぼす影響の分析,3)モデル構築手順とコンセプト整理および基本モデルの公表,以上を目的に実施してきた. 完了年度である本年度は,過年度までに開発してきたFortran95言語によりプログラミングされた水路のネットワーク化による個体群再生予測モデルを用いて,生息空間規模がタモロコGnathopogon elongatus elongatus個体群に与える影響についての個体群存続可能性分析を実行するとともに,同モデルの基本的枠組みを整理し,その公表を進めた.前者は,谷津田域を流れる水路において,分断等によって利用可能な水路延長が異なる場合を想定して実行したもので,そこに対して他からの個体の供給が無い場合には,延長800~900mを境に個体群の消滅リスクが発生するシミュレーション結果となった.この結果およびその際に得られた,水路縦断方向における個体数分布の傾向は,千葉県の谷津田域で得られた既存の調査結果に矛盾するものではなかった.このことから,比較対象とした現実の水路は降下個体が多く個体の供給源としての機能が高いという可能性が考えられるとともに,モデルの基本的枠組みにおいて問題の無いことが確認された.また,後者,すなわち成果の公表・発信においては,本年度開催された第9回国際環境水理シンポジウム(於:オーストリア国)での発表を行い,同モデルに対する意見や数理生態分野の海外動向についての情報収集を図りながら国内外に向けて広く発信を行った.
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