キュウリ植物体で全摘葉を行ったとき果実で発現が増加する遺伝子をサブトラクション法によってクローニングしたところ、糖欠乏のよい指標として知られるアスパラギン合成酵素遺伝子ともう1つの遺伝子の発現が増加していた。後者の発現促進は50~100倍と極めて顕著で、5'-RACEによりcDNAの全長を決定したところ、キュウリの体細胞胚発生に伴って発現することが報告されているCsSEF1遺伝子であることが明らかになった。全摘葉処理では水ストレス等の関与も否定できないので、植物体を連続した暗黒下におく処理を行ったところ、同様に顕著な発現の促進が見られた。キュウリ果実の成長速度は今回の補助金で購入した主な備品である赤外線ガス分析計を用いた呼吸速度の測定によって、連続的に測定することができる。その結果、呼吸速度は暗期開始の翌朝の6時頃に急激に低下し始めるが、CsSEF1の発現はこれとよく相関していた。連続暗黒条件において、側枝の茎頂部や根ではCsSEF1とアスパラギン合成酵素の発現が促進されたが、成熟葉ではアスパラギン合成酵素の発現が促進されたものの、CsSEF1の発現は促進されなかった。そこで、CsSEF1は急速に成長するsink組織における成長停止と関係していると考えられた。CsSEF1はtandem CCCH zinc finger(TZF)モチーフを持っている。TZFはヒトなど動物では比較的よく調べられており、RNAに作用することなどが知られているが、植物においてはその機能がほとんど知られておらず、本研究の結果は有用な知見と言える。以上の成果の一部はPlantaに掲載された。また、サブトラクション法で得られた別のクローンを調べたところ、zinc fingerモチーフをもつ新規遺伝子が見いだされたので、現在その配列の決定と発現解析を行っている。
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