研究概要 |
H23年度の研究課題は,下記(1)~(3)であった。 (1)培地中の微小物体サンプルおよびカビ菌糸のホログラム像撮影と画像再生実験. (2)再生画像のSN比の評価およびノイズ低減法についての検討. (3)研究成果のまとめと公表. これらについて,以下のように進めた。課題(1)について,寒天培地に埋め込んだ綿糸をサンプルとしてホログラムの撮影および像再生実験を行った。当初,位相シフト法によって共役像などのノイズの低減を行う予定であったが,撮影系の僅かな振動の影響によって逆にノイズが増加することが多かった。そのため位相シフト法の適用を断念し,それと引き替えに採用が可能なインライン型の光学系の使用によって,高コントラスト化を図った。さらに,培地表面の乾燥に留意して培地の作製をすることによって,著しいノイズの追加なく綿糸像の再生が可能となった。しかし,カビ菌糸そのものの撮影・再生実験では,菌糸1本1本を観測することはできていない。その原因は,CCDイメージセンサの画素サイズが大きく,分解能が不足しているためと考えられるため,今後像の拡大撮影を行う必要が認められた。課題(2)については,解像度不足のためカビ菌糸のSN比の評価はできていない。そこで,通常の透過型ディジタルホログラフィ光学系とインライン型の光学系の両者について,綿糸を被写体としたSN比の比較実験を行った。通常の透過型光学系からの再生像ではSN比が1を切ることがあり検出困難であったが,インライン型を用いた場合には2以上のSN比が得られており,共役像などのノイズ存在下でも綿糸を検出可能であることがわかった。課題(3)については,定量的な実験が遅れていうため,実施されていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究目的のうち,SN比を高くできる光学系の検討と,培地の位相乱れの影響回避法の検討については,計画どおりに進んでいるが,ノイズ低減の画像処理の検討が遅れている。理由は,当初の計画で使用予定だった位相シフト法は主に振動の影響のために適用困難であることがわかったことと,イメージセンサの解像度不足のために菌糸1本1本の撮影がまだできていないためである。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で使用する大型のCCDイメージセンサの場合,菌糸1本1本まで撮影するためには拡大撮影が必要であることがわかった。そこで,撮影領域を犠牲にして菌糸そのものの検出を目指すのか,あるいは菌糸そのものではなく菌糸の成長に伴う培地表面のわずかな変形に起因する陰影を検出するのとで,どちらがより迅速かつ正確に検出可能なのかを調査する。前者の方法では,背景のノイズ中に存在するカビ菌糸の識別が重要であり,効果的なノイズ低減が最大の課題と考えられる。一方,後者の方法では,拡大撮影をせずにカビの存在を捉えられる可能性があり,撮影範囲を広くできるメリットがあるが,カビと生菌のコロニーとの区別が可能かどうかが問題となるため,その点に留意して検討を進める必要がある。
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