私共はResident-Intruder Paradigm(RIP)法により、攻撃的なラットの持続的社会的ストレスを社会的低位のラットに暴露して、社会的敗北ストレスモデルラットの作製を行ってきた。特に社会的敗北ストレスモデルラットにおける増体や摂食に着目して解析している。本研究課題では、23年度までに、社会的敗北ストレスモデルラットでは増体が対照区よりも有意に低く、さらにラットの活動期である暗期の摂食量について、ストレス区は対照区と比較して有意に低いことを明らかとした。社会的敗北ストレスによる摂食抑制に研究の焦点を当て、摂食行動を制御する視床下部において、重要な摂食制御因子であるマロニル-CoAに着目した。一般的に視床下部のマロニル-CoAレベルが増加すると摂食抑制され、減少すると摂食行動が惹起される。本モデルの視床下部マロニル-CoA濃度は対照区と比較して有意に高く、このことがストレスモデルの摂食抑制に関与している可能性を見出した。24 年度は社会的敗北ストレスによる視床下部マロニル-CoAレベル の増加メカニズムについて解析した。マロニル-CoAは AMP キナーゼ(AMPK)に負に制御され、アセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)に正に制御される。社会的敗北ストレスモデルラットの視床下部では、AMPKのリン酸化は対照区のものよりも有意に低下しており、また、ACCは対照区のものよりも脱リン酸化されていた。ACCはアセチル-CoAからマロニル-CoAを合成する酵素であるが、脱リン酸化することで活性化することが知られている。以上により、社会的敗北ストレスは視床下部のAMPKとACCに作用し、マロニル-CoAレベルを上げて、摂食抑制を引き起こす可能性が示唆された。
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