我々は昨年に引き続き、マウス胚性幹細胞(ES細胞)からの生殖細胞の分化誘導実験を試みた。ES細胞からの生殖細胞の分化誘導研究が確立されれば、生殖細胞の形成過程を研究する上で有効なツールとなると共に、不妊症における病態メカニズムの解明や、新規創薬研究に応用できる可能性がある。このような背景より、現在まで様々な検討がなされてきているが、報告間での誘導効率には差が生じており、誘導効率の不安定さが課題として挙げられる。体外モデルとしての応用を視野に入れた場合、誘導系の汎用性が必要となるため、このような問題は解決する必要がある。そこで、我々はES細胞の有する不均一なポピュレーションに注目した。ES細胞は同一コロニー内において、様々な遺伝子発現を有する細胞がモザイクな状態で混在しており、細胞株間および培養環境に左右され変化する。そのため、生殖細胞の分化誘導時における不安定な誘導効率の一因となっている可能性が考えられる。 このような着想に基づき、昨年ではマウスES細胞の不均一性を是正することで、生殖細胞の誘導効率が安定化することを証明した。本年では、誘導された生殖細胞の特徴を詳細に解析、その機能を確認した。結果、生殖細胞に関連した遺伝子発現やインプリント遺伝子のメチル化の消去など、阻害剤を添加して培養を行ったES細胞から生殖細胞の特徴を強く示す生殖細胞様細胞が得られることを明らかとした。そのため、昨年までの結果では不均一性の是正が生殖細胞の誘導を安定化していると考えられたが、それ以外にも阻害剤の添加はES細胞を生殖細胞に分化しやすい状態へ変化させている可能性が考えられる。さらに、不妊マウス精巣下へ誘導した生殖細胞様細胞を移植すると、精子形成過程へと進行することが確認された。
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