これまでの成績から、ウシプロラクチン関連タンパク質1(bPRP1)は、カテプシンやマトリックスメタロプロティナーゼによってC末端側を切断され、その結果生じたN末端側断片が血管内皮細胞を増殖させることを報告した。 今年度は、bPRP1のN末端側断片による血管内皮細胞増殖作用が胎盤性プロラクチン(PRL)ファミリータンパク質に普遍的に認められる現象か否かを検証した。完全長(シグナル配列のプロセッシング部位から停止コドンまで、以下完全長bPLと略)とN末端側から151アミノ酸残基のN末端断片(カテプシン切断で生じるN末端断片に相当、以下151-bPLと略)のウシ胎盤性ラクトジェン(bPL)の組換えタンパク質を大腸菌発現系で作成した。 作成した2種類のbPLを、Nb2細胞によるin vitroバイオアッセイでラクトジェニック活性を検定したところ、完全長bPLはウシプロラクチン(bPRL)とほぼ同等のラクトジェニック活性を示したが、151-bPLは全く活性を示さなかった。次いで、2種類のbPLの血管内皮細胞増殖に及ぼす影響を検討したところ、完全長bPLは100ng/ml間での添加濃度で培養ウシ血管内皮細胞の増殖に影響を与えなかったが、151-bPLは100ng/mlの添加量で培養ウシ血管内皮細胞の増殖を有意に抑制した。 以上の成績から、bPLはbPRLと同様のラクトジェニック活性を有するとともに、酵素切断によって生じるN末端断片の生物活性もbPRLに類似していた。本年度の成績から、bPRP1のN末端断片は、bPL/bPRLのN末端断片と比較して血管内皮細胞に対する作用が全く反対であることが示された。このことは、ウシの胎盤性PRLファミリー分子がそれぞれ異なる役割を担っていることを示唆しており、血管新生の場面においても相互に拮抗しながら妊娠維持に重要な役割を担っていることが伺われた。
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