ハエ類による病原体の伝播は、単なる物理的現象でなく、bioenhanced transmission(媒介動物による促進的伝播)としての認識が示されている。申請者は、ハエ類による機械的伝播メカニズムを研究するために、ショウジョウバエを用いた伝播実験モデル系を構築し、ハエ類の行動や生理現象が機械的伝播にどのように関与するのかを解析した。その結果、ショウジョウバエは病原体を直接摂食し、糞を介して効率的に感染拡大を引き起こす事が示唆された。そこで味覚や匂い、摂食に関する行動・神経変異体を用いて伝播能力を評価した結果、嗅覚受容体サブユニットをコードするOr83b遺伝子の変異体ショウジョウバエでその効率が激減することを見い出した。以上のことからショウジョウバエは、細菌由来の化学物質を触覚における嗅覚により認識し、明確な細菌嗜好性を示すことが示唆された。このような細菌由来の誘引物質を同定するために、ガスクロマトグラフと質量分析装置を直結したGC-MSによる分離を試み、いくつかの揮発性成分を検出した。そしてこれらの成分が、実際にショウジョウバエを誘引することを証明した。以上の結果から申請者らは、食中毒細菌の誘因物質によりハエ類における直接摂食が誘導され、媒介が促進されている可能性を示した。ハエ類による病原体の伝播に関する遺伝学的・分子生物学的な研究は大変に独創的であり、これまであまり知られていなかった機械的伝播メカニズムの解明に大きく貢献した。
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