研究課題
CYPIA誘導剤は、代謝過程において活性酸素種(ROS)を誘導し、酸化ストレス亢進による肝腫瘍プロモーション作用を示すことが報告されている。本年度は、CYPIA誘導(Indole-3-carbinol: I3C)投与での肝腫瘍プロモーション作用が、抗酸化物質(N-acetyl-L-cystein: NAC)を併用投与した時に抑制されるか否かを検討した。動物種は雄性F344ラットを使用し、投与方法として0.5%I3C単独混餌投与群、さらに0.3%NACの飲水投与を施した併用投与群を設けた。投与期間は8週間とした。NACは、生体内抗酸化物質であるグルタチオンの前駆体であり、臨床的にはアセトアミノフェン急性肝障害に対して処方されている。併用投与の結果、前がん病変マーカーであるGST-P陽性細胞巣がI3C単独群に比較し減少した。realtimeRT-PCR解析によりのCyp1a1の発現量を比較したところ、発現量に有意差は認められず、ミクロソーム画分のROS産生においても変化はみられなかった。しかしながら、抗酸化応答遺伝子群であるNrf2・genebatteryのNqo1、Gpx2およびMe1はNACの投与により減少した。以上のことから、NAC投与によりROSが捕捉され、酸化ストレスが減少したことが示唆された。しかしながら、ゲノム中の8-OHdGは減少せず、陰性対照群と比しても増加したままであった。以上のことから、NACは13Cの肝腫瘍プロモーション作用を抑制したが、その抑制作用にはDNAへの酸化損傷よりもシグナルカスケードに対して挿制的に作用するものと考えられた。今回の実験成績は、I3CのようなCYPIA誘導剤の肝発癌における酸化ストレスの関与を理解する上で、重要な知見を提供し得るものと考えられた。
1: 当初の計画以上に進展している
肝腫瘍プロモーション作用の機序として、CYPIA由来の酸化ストレスの関与を示すことができたが、その酸化ストレスの影響には、DNAよりもシグナルカスケードへの依存の方が高い可能性が示唆され、酸化ストレスによる肝腫瘍プロモーション作用の発現機序をさらに明確にすることができた。
本年度までは、肝腫瘍が促進される背景的な特徴を肝臓という臓器単位で包括的に解析する方法を選択してきた。その結果から、シグナルカスケードの関与が示唆されたが、本解析結果は、将来的な意義としては酸化ストレスマーカー等の臨床的側面から大いに評価されうるものである。一方、より基礎的な創薬ターゲットという観点で鑑みた場合、各々の腫瘍の解析もまた重要な一面である。従って、次年度はI3Cにより誘発された個々の腫瘍への解析を中心として研究を発展させていきたい。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (2件)
The Journal of Toxicological Sciences
巻: 36 ページ: 775-786
doi:10.2131/jts.36.775
Toxicology
巻: 283 ページ: 109-117
doi:10.1016/j.tox.2011.03.003
Archives of Toxicology
巻: 85 ページ: 1159-1166
doi:10.1007/s00204-010-0640-7