本研究は病原体の感染に対する防御機能を持つミルクタンパク質(high-potential milk protein: HMP)に着目し、HMP の有する鉄キレート作用やヘム結合能がマダニの生存の基本であるヘムとヘムから生じる鉄の代謝に、大きな影響をマダニの発育・増殖に及ぼす可能性があると考えるに至った。すなわち、バキュロウイルスベクターを用いて、経皮的にマダニ体内にHMPを投与することによって、マダニの吸血・産卵を阻害できる可能性が高い。当初はマダニ吸血後のマダニ体内に含まれるHMP のラクトフェリンの検出を行ったが、ラクトフェリンの存在が確認できなかった。そこで、ラクトフェリンと同じ鉄結合性タンパク質であるトランスフェリンの検出を試みたところ、トランスフェリンは中腸から血体腔へ移行し、卵巣に到達することが確認された。これらの結果より、トランスフェリンは卵巣内の卵母細胞に鉄を供給する役割を果たしている可能性が示唆された(投稿準備中)。マダニは病原微生物を媒介する吸血性の外部寄生虫であり、マダニ体内は吸血する際に血液に含まれる大量の鉄分子に暴露されることが予想される。鉄分子はマダニの生命恒常維持において不可欠であるが、時には鉄分子の過剰摂取はマダニにとって有毒になることも考えられる。しかし、マダニ体内における鉄代謝のメカニズムについては完全に明らかになっていない。そこで、我々はフタトゲチマダニを用いて鉄代謝を制御することが予想される分泌型フェリンチン2を新規に同定し、すでに同定されている細胞内型フェリチン1とそれらの特性について比較し、フェリチンの鉄代謝における役割について検討を行った。その結果、鉄結合性タンパク質であるマダニ由来フェリチンも鉄輸送に重要な分子であることを見出した(J. Exp. Biol. In press)。
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